日本国内で安定的な生産が可能となったハトムギ。富山県・石川県・栃木県・宮城県・鳥取県などで農家とJA(農協)が共同して生産量確保と品質向上に努めています。㈱黒姫和漢薬研究所でも富山県小矢部市産(JAいなば)のハトムギを代表製品の「えんめい茶」はじめ多くの製品に用いるようになり15年となります。
国内産の安定供給が出来なかった20年以上前は、当社が用いていたハトムギはベトナム産でした。今回はそのベトナムの生産地の思い出を書かせて頂きます。ちなみに、ハトムギは殻の中身の部分を生薬名「ヨクイニン(薏苡仁) 」と言い、中国、インドシナ地方に分布する一年草で、草丈1~1.5mになります。 日本には江戸時代の享保年間に渡来し、全国各地で栽培されています。「ヨクイニン」はハトムギの殻と種皮を除いた種子で、コイキセノリド(脂肪油、脂肪酸)などの成分を含み、滋養強壮、いぼとり、抗肌荒れなどの作用があります。
ベトナムでは、平野部よりも山岳地帯で栽培をされていました。弊社が栽培を行っていた山岳地帯の村は、首都ハノイから約300キロ、北西部のムーカンチャイです。少数民族のモン族が暮らしている地域です。この村の名所が、見渡す限りの急斜面に広がる圧巻の棚田であり、ベトナム国家文化遺産に指定され、海外の有名旅行雑誌では「世界で最もカラフルな場所」の1つに選出された場所です。
俳人一茶が姨捨山の棚田詠んだ句「しなのでは月と仏とおらが蕎麦」が有名ですが、まさに田毎の月がベトナムの村でも見ることができました。また、この地は険しい山道などで村へ車で行くこともできず、人間の背負う力で山の畑から下の道路までの10㎞を運んでいました。ハトムギは野生の力が強く、密作(茎と茎を近づけて栽培すること)をすると、茎同士が競争するように上に伸びてしまい、中身のない殻だけのハトムギができてしまいました。
現在の日本国内の栽培ではこの点も改良された品種「アキシズク」が栽培されています。しかし当時(2000年ごろ)のベトナムでは改良前のものでヨクイニンを大きく結実させる方法として陸稲の田に離して植え付け、一茎ごとの実りを多くする方法を取っていました。
山の上から50Kg近いハトムギを人が背負って下す作業。この苦労を経て製品としていた時代に日本から案内人の方と共に二人で訪問した時代も20年前のこととなってしまいましたが、あの山岳集落の風景は薬草を育てる厳しさを忘れえないものとして私の記憶に刻まれています。